酸蝕症は、化学工場など酸を取り扱う作業者がその酸によって、歯のヒドロキシアパタイト(HAP)が脱灰されたものと考えられているが、2007年の今日、少なくともわが国のような先進工業国では、酸蝕症に罹患するような劣悪な作業環境は労働衛生の観点からも問題にする必要はないと考える。
それよりも、う蝕を感染症と捉える方が問題は大きいと考える。ストレプトコッカスミュータンス連鎖球菌(乳酸産生菌)などの微生物が生息している汚染された口腔内において、健常な歯はエナメル質によりそのイノチは守られていると考えたい。中林はう蝕を乳酸産生菌が作り出す乳酸による酸蝕症と考えたい。即ち、口腔内で産生される乳酸の量をゼロにできれば、う蝕は防止できると考える。歯科医師と歯科衛生士がプラークコントロール(歯垢、バイオフィルム)の意味とエナメル質の生物学的機能を辺縁の科学の知識を駆使して理解してくれることを期待したい。そして、口腔健診の際にプラークコントロールは歯の周りだけでなく、歯の表面を含む口腔内全体を清潔にする必要性を患者にインフォームドコンセントして欲しいのである。
酸性雨が地球環境を汚染しているとされ、石炭火力発電所の排煙脱硫技術や石油精製時に遊離される硫黄分の回収技術の向上により、酸性雨の被害は先進国では一応解決されていると考えるが、地球全体から見ると国境を越えた酸性雨の被害を低減する必要はある。
中林は人々の口腔内で日常的に乳酸産生菌により産生される乳酸による酸蝕症を防止したいのである。これには生息するミュータンス菌の数を減らすことと、ミュータンス菌のエサとなり乳酸産生の源となる食物残渣を口腔内のブラッシングにより徹底的に除去することが必要であると考える。歯のブラッシングだけでは不十分であるとしたい。これまでのう蝕予防では、う蝕に罹患する歯をブラッシングすれば事足りると考えられてきたようであるが、あえてう蝕の原因を乳酸による酸蝕とすると乳酸が産生される部位全体をブラッシングの対象とすべきことを理解できよう。
更に、象牙質接着の際に、スミヤー層は除去した方が得策であるとされているのと同じように、スミヤー層も口腔内で産生される乳酸により脱灰消失されるので、スミヤー層が知覚過敏症消退に有効であるとされた過去の期待感は無効であることも理解して欲しい。
う蝕の治療は接着性レジンで完治するのではなく、良質の接着システムが作る樹脂含浸象牙質の外来刺激不透過性の機能が乳酸の辺縁漏洩を阻止する結果、二次う蝕と術後に惹起される知覚過敏と歯髄炎を阻止する上で有効であると考えて欲しい。修復物の脱落を接着力で阻止する考え方は、支台歯を構成している塩基性のHAPが口腔内で歯科材料よりも不安定である事実から考え無理なのである。即ち歯を構成する無機質成分が酸で分解されやすい塩基性のリン酸カルシウムであることが、修復物の脱落の原因であることを、酸蝕症を理解したと同じように理解して欲しい。唾液の緩衝能で食後間もなく唾液のpHが中性に戻るのではなく、HAPが乳酸の中和に消費されている(う蝕の原因)ことを認識して欲しいのである。
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