・歯のイノチを守るエナメル質

 私達の身体は皮膚で覆われ、イノチが守られている。生物の原点、細胞が地球上に現れたときにも、細胞膜で覆われていた。生物を構成している細胞は細胞膜で囲まれて、それぞれの機能を果たしている。
 外来刺激不透過性の緻密なエナメル質で象牙質、歯髄を取り囲み歯の機能を果たしている。歯のイノチを守る環境をエナメル質は保っている。即ちエナメル質は歯のイノチを守る砦と考えるべきである。安易にエナメル質を削り取ることは生きた歯の環境を破壊して、歯のイノチを危険にさらす恐れがあり、再検討すべきと考える。
 エナメル質は乳酸不透過性であるが、血液のアシドーシスの修正はどのように行われているか。骨を構成しているHAP(ヒドロキシアパタイト)がカルシウムイオンを供給して緊急に補正している。口腔内に生息するS連鎖球菌が乳酸を産生している。エナメル質は乳酸を中和して、自らは分解され口腔内を中性に保っている。これがエナメル質う蝕の始まりである。唾液に緩衝能があるから口腔内は中性に保たれると説明されているが、血液のアシドーシスの補正メカニズムから推察して、骨と同じようにエナメル質のHAPが乳酸の中和に利用されると見るべきである。口腔内(唾液)のpHが中性であっても、乳酸が溶けていると、乳酸はHAPと反応してエナメル質は脱灰される。
 エナメル質より象牙質のう蝕罹患速度が早いとされているのはHAPの結晶のサイズが小さいためである。唾液のphを計測してそれの緩衝能が、唾液を中性に保っているとするのは乳酸がHAPにより中和された後のpHを計測している可能性に留意したい。HAPの分解はエナメル質の表面で進行するとすべきであろう。特にバイオフィルムで取り囲まれた固層の歯の組織では、そこで産生される乳酸は唾液に拡散する以前にHAPを分解するとすべきである。
 乳酸によるう蝕が象牙質に到達すると、歯髄は外来刺激により疼痛を訴える。これは歯のイノチが危険にさらされているという信号であり、刺激が歯髄を刺激しないように露出象牙質を封鎖して保護する必要がある。
 修復歯のエナメル質の不透過性が確保されていなかったとき、象牙質に乳酸などの外来刺激の浸襲を防ぐ防護壁、エナメル質に順ずる構造物、が存在するか。これが、修復歯の二次カリエスによる寸法精度に優れた修復物でさえ脱落する運命が待っていたのである。脱灰象牙質は外来刺激透過性があり、これが以前研究されていたマイクロリーケージテストであり、これは脱灰象牙質の可視化方法であったとしたい。現在でもマイクロリーケージの解決策は中林らの報告を除いてない。
 中林らが報告してきた酸の不透過性を確認した樹脂含浸象牙質によるマイクロリーケージ防止策が唯一つ二次カリエスを防止し、修復物の脱落を阻止する方法である。HClとNaOClの攻撃に抵抗可能であることは、二次カリエスの防止が可能であることを示している。修復物の脱落は維持力の増強では解決できず、支台歯と窩洞の表層部に刺激不透過性の砦(エナメル質と同じ機能を有する人工物)を構築することが不可欠である。即ち刺激不透過性の砦により、修復歯のHAPが乳酸による脱灰を受けなくなり、結果として支台歯の寸法変化を阻止でき、修復物の脱落を防止できるのである。修復物の脱落が歯科の最大の問題点ではなく、口腔内で象牙質が脱灰されることを如何に阻止するかが問われていたのである。
 t.o.h.の活動は生物が安全にそのイノチを保てるようにする地球環境の維持運動にも通ずるのである。即ち歯のイノチを大切にする運動でもある。これが歯科医学の究極の目的でもあると考える。