・脱灰象牙質が共存する接着修復はマイクロリーケージを引き起こす

歯科では以前からマイクロリーケージという用語が使われ、それの阻止法が盛んに研究されてきたが解決策はえられなかった。21世紀の今日これの原因を考えてみると脱灰象牙質が存在するとそこに染料を吸着(可視化)させてマイクロリーケージが起こる場所としていた。当時マイクロリーケージという用語が作られた事実は、その当時の歯科関係者の慧眼であったと中林は高く評価したい。モノを染めるには素材によって染料を選択する。脱灰象牙質を構成しているGAGs(酸性の高分子電解質で非コラーゲン性タンパクと総称され、塩基性染料を吸着する)とコラーゲン(絹や羊毛を染める酸性染料や塩基性染料に染まる)の存在を可視化するには、通常の染色条件で脱灰象牙質が染まる染料を選択したい。象牙質支台歯に修復物をセットするとき、リン酸亜鉛セメントを選択すると、セメント泥中のリン酸が象牙質中のHAPを中和反応により解かし出すと(脱灰)、GAGsが遊離された多孔質の脱灰象牙質が生成され、セメントはその上で硬化する。脱灰象牙質は口腔内で容易に加水分解されて消失していく。

口腔内ではS.ミュータンスが乳酸を産生しており、これが多孔質の脱灰象牙質から辺縁漏洩して支台歯を更に脱灰する。酸と反応しやすいHAPを構成成分に持つため、歯は一見硬く安定な構造物のようであるが、酸性雰囲気では必ず脱灰される。解決策を見出せなかったマイクロリーケージも、実験に利用する試料をリン酸亜鉛セメントで作っていたため、必ず多孔質の脱灰象牙質を含んでおり、マイクロリーケージを阻止できなかった。修復歯に存在する脱灰象牙質の中を乳酸が辺縁漏洩し支台歯を脱灰するなど想像の外側であった。支台歯が脱灰されると、脱灰象牙質は加水分解され支台歯は小さくなる。これは口腔内で起こる自然現象であり、精度よく作られた修復物でさえ維持を失い脱落する。修復物の維持力を接着で増強しても解決策にはならない。接着は構造物の機械的強さで評価するが、乳酸の透過性は材料(歯)の化学的性質で議論すべきである。染料を透過させ、修復歯(構造材料)に染料が拡散できるか否かを調べる方法がマイクロリーケージ試験であった。機械的に欠陥を調べるにはそれなりの知識が必要である。それには引張り試験に供する試料の選択が重要である。繰り返し荷重による疲労も引張り試験で解析されてきた。リン酸亜鉛セメントで作成された修復歯が弱くて、引張り試験試料を切り出せなかったために、歯科ではせん断試験が多用されてきた。このような修復歯は弱くて構造物として使い物にならないことを暗示している。姉歯元一級建築士が設計したとされる耐震強度不足の欠陥マンションのような構造物(修復歯)といえよう。

乳酸の透過による象牙質支台歯の脱灰を2次カリエスと表現してきた。二次カリエスに罹患すれば修復物は脱落する。乳酸不透過性の砦を象牙質支台歯の表層に設ければ解決策になることは想像できよう。乳酸不透過性の砦こそ中林らが1982年以来報告してきた樹脂含浸象牙質に他ならない。歯への接着材を開発する目的で発見された樹脂含浸象牙質であったが、これは接着に有効であるが、乳酸や病原菌などの外来刺激を歯の中に侵入させない防護壁の機能の方が重要で、接着強さは問われていない。この単純明快な事実を歯科関係者はぜひとも理解して、患者に、二次カリエスに罹患しないように樹脂含浸象牙質で保護された支台歯を先ず作成し(切削象牙質の擬似的治癒)、その上に修復物を接着させた(欠損部のリハビリテーション)歯科治療を患者に提供して欲しい。これは、高速切削バーが開発される以前のエナメル質支台歯への修復と類似しており、中林らが人工エナメル質に修復物を接着させて欲しいと申し上げている由縁でもある。

脱灰象牙質が残る接着修復は当然二次カリエスによる修復物の脱落を阻止できない、象牙質への接着材が無かった時代に逆戻りした歯科治療と同じであり、接着歯学の敵である。接着性レジンを利用するのが接着歯学ではなく、口腔内で産生される乳酸にHAPが分解(中和して解かされる)されないように、歯の周りを樹脂含浸象牙質・樹脂含浸エナメル質で保護するために接着歯学があると理解して欲しい。エナメル質カリエス予防と歯周病対策にはプラークコントロールが必須であり、歯科医師、歯科衛生士の皆さんにはきちんと社会(患者さんと患者予備群の人たち)を教育する知識も学んで欲しい。これが、われわれが行っているt.o.h.活動である。