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・福知山線の転覆現場と化学結合による歯質接着説 |
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JR西日本・福知山線の脱線転覆事故の悲惨さは言葉に言い表せない悲惨な鉄道事故でした。世の中が何か狂っているような気がしてならない。兵庫県のレスキュー隊の方々の献身的努力で悲惨な事故とはいえ、亡くなられた方の遺体の収容、負傷された方々の救出は何とか終わったようである。事故当日と1週間後では事故原因に対する見方も、置石説からスピードの出しすぎ、それも「ダイヤの遅れを取り返さなければいけない」という亡くなった運転手のJR西日本(株)の方針に追い詰められた可能性さえ話題になっている。社会全体が、過去の色々な経験を軽視する風潮が見え隠れする。 歯科臨床の現場は、救出活動に全力を挙げた列車転覆事故現場と何か共通点がないか。事故にあわれた被害者を救出しようと一生懸命に努力されたレスキュー隊の人たちは、事故の原因など考える余地はなかったと思う。歯科治療の現場では疾患の原因を考えるよりは、患歯を救いたいという切羽詰った気持ちが先にたつのであろう。これが目先の患歯にとらわれがちな歯科医師集団ではないか。第二回国際接着歯学会で、中林にショックを与えたのは、中林の定義した物質不透過性の水中で安定な樹脂含浸層ではない、液体が移動できる不安定な樹脂含浸層の話題が一つの中心であったかと思う。不安定な樹脂含浸層の議論には安定な樹脂含浸層の話題も欲しかったと思う。これが欠落したシンポジウムでは、樹脂含浸層は不安定であると誤解される危険がある。 メーカーの研究者の製品の説明を聞いて中林は愕然とした。中林が提案した酸不透過性とNaOCl抵抗性を保証した樹脂含浸層は、化学反応を否定せざるをえなかった研究結果を理解するために考え出された仮説を科学的に証明するために、ヒドロキシアパタイトとは反応しないメタクリレートを合成した研究に端を発しているのである。1955年にエナメル質への接着が報告され、臨床にも導入され、その接着の安定さは歯科医師皆が認めることとなった。しかし象牙質への接着は困難を極め、何時しか象牙質と化学反応する接着材を作れば解決策に結びつくであろうという風潮が世界に蔓延していた。反応性高分子の合成と機能評価という論文で学位(工学博士)を頂戴した中林は、大学院時代の研究をバースに象牙質への接着に興味を持った。教室では象牙棒のコラーゲンにMMAがグラフト重合して湿潤象牙棒にPMMAが安定に接着できることが明らかにされていた時代である。コラーゲンを含む象牙棒には接着するのに、象牙質には接着できないことに中林は疑問を持ち続けていた。コラーゲンにグラフトして接着していれば、これは立派な化学結合による接着といえる。リン酸エッチングされたエナメル質にはコラーゲンがなくてもMMA-TBBレジンは接着でき、これがブラケットをエナメル質に直接接着する歯科矯正治療に革新的進歩をもたらした初めての接着剤であった。エナメル質の接着にもヒドロキシアパタイトと化学反応できるメタクリレートと使った研究が行われていた。中林もエナメル質と反応できそうな重合性の化合物をいくつか合成し、矯正用接着剤の改良に資する研究のお手伝いをしていた。この時反応性基(後に親水性基と考えるようになった)が必須であるよりは反応性基とフェニル基を持つメタクリレートに接着に有効な化合物があった。例えばメタクリル酸やアクリル酸は無効であった。この時、先述の化学反応性基が必須ではなく、親水性基と疎水性基が接着には大切であり、かかる化合物は生体組織に吸着されやすいために接着に有効なのではないかという考えが浮かんだ。実はこの考えが、樹脂含浸層を生み出す背景として1970年ごろから中林の頭の中に存在していた。これを実証するには、ヒドロキシアパタイトとは反応しない水酸基(親水性基の一つ)とベンゼン環を持つ化合物を合成することにした。この成果はオルソマイトIIsとして製品化された。困ったことにこのモノマーは象牙棒の接着には無効であった。MMA-TBBレジンとHNPM/MMA-TBBレジンのエナメル質接着に与える影響は、後者の方がモノマーがより深く拡散していた。即ちHNPMにはMMAの拡散を促進する働きがあることに気付いた。 いくつかの実験を通して、Phenyl-Pと4-METAが合成された。Phenyl-Pは重合性リン脂質を合成するための中間体として教室で合成されていたが、某社が歯質接着性レジンの開発に乗り出すときに相談を受け、HNPMの拡散促進作用と接着の関係に興味を持っていた中林はPhenyl-Pにも同じような機能があると考え、手始めにPhenyl-Pを利用することを薦めた。4-METAはカルシウムイオンを運搬するアミノ酸の構造を模して合成された。Phenyl-Pと4-METAは酸性基を持つので、ヒドロキシアパタイトと化学結合すると説明されているが、これは結果であって、ヒドロキシアパタイトという結晶と反応するのは拡散した後、そこにあるヒドロキシアパタイト(塩基性リン酸カルシウム)と中和反応すると考えるのである。HNPMの機能まで思いがいかない目先の現象にとらわれがちなのは人の世の常である。マンションの地下にもぐりこんだJR西日本の列車転覆現場を見て、脱線に原因を求めたがった関係者と何か符合する判断であると筆者は言いたい。臨床家でも結果論で議論しては許されないと中林は考えたい。研究者には現象(データ)を正しく判断する能力が求められている。特に固相の反応は拡散が支配することを化学を学んだ人たちは理解して欲しい(液相での化学反応の違い)。臨床家には齲蝕の成因を科学をベースに理解する努力を求めたい。中林は齲蝕は乳酸で代表される口腔内微生物が産生する酸とヒドロキシアパタイトとの反応の結果であると考えている。合わせて、歯石の構成分子は何かも分析して欲しい。石灰化とはどんなリン酸カルシウムが沈着する現象か。肉眼では観察できない微小脱灰部分を唾液が修復(ヒドロキシアパタイトの生成)するのと唾液が歯石を作るといわれているが、何処に差異があるのか興味ある問題点と中林は考えている。 |
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