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| ・安田理事長のエッセー「歯科医 つれづれ記」(読売新聞夕刊)の20回目が掲載されました | ||||
安田理事長が読売新聞夕刊に連載しているエッセー「歯科医つれづれ記」の20回目が掲載されました。 【歯科医 つれづれ記】 以前、今は亡き父親と母親の総入れ歯を作ったことがある。今思えば私の最後の親孝行であったかもしれない。しかし、身内の治療ほどやりにくいものはない。お互いに甘えがでて、ああだこうだと言い合い、結局はけんか腰で治療をする羽目になる。 父親はそれ程でもなく、結果的には、まあいい入れ歯ができたと思っている。「息子が作ったんですよ」なんて、近所の人に自慢していたらしい。 大変だったのは母親の方である。何しろ母親と言うのは、息子なんて自分の分身ぐらいにしか思っていないので、ちょっとやそっとでは満足してくれない。あっちが痛い、こっちが曲がっているで、なかなか終わらない。 その母が、「私は子供をたくさん産んだので、子供達にカルシウム分を全(すべ)て取られて、歯がボロボロになってしまった」とよく言っていた。そういえば、50歳前から総入れ歯だった記憶がある。 正直、歯科医になる前は、子供を産むと言うのは、それ程大変なものなのかと思ったものである。いまでも、患者さんの何人かが同じようなことを口にするが、実はこの表現、学問的には正しいとは言えない。 まあ、仮に母体からカルシウム分が子供に移ったとしても、そんなわずかなことでボロボロになるほど歯はやわではない。端的に言えば、妊娠、出産という環境の変化に、歯磨きがおろそかになっただけのことである。そう言っては身も蓋(ふた)もないが、つわりがひどければ歯ブラシだって口の中に入れるのも嫌だろうし、身体が重くなれば、洗面所に歯磨きに行くのさえ面倒になるだろう。 お腹(なか)が大きくなると胃が圧迫されて、一度にたくさんは食べられない。そうすれば、必然的に間食を取る機会も増えてくる。さらに、酸っぱい物を頻繁に取るようになれば、まさにむし歯ができやすい環境を、自らが整えているというわけだ。 加えて、妊娠時は歯周病になりやすい。これは、女性ホルモンの影響で歯周病菌が増殖しやすくなった結果である。そんな状況で歯磨きが十分できなければ、歯周病は悪化するのが当然である。 結論を言えば、妊娠時にはむし歯にも歯周病にもかかりやすい環境にあることは確かである。だからこそ、歯の手入れは普段以上に念入りにやらなければいけない。 こう考えると、私の母親が子供のために歯がボロボロというのも分からなくはない。何しろ8人も産んだのだから。でも、その代償に自分の歯を失ったというのでは、末っ子の私としてはいささか複雑だ。ねえ、おふくろさん。 (東京クリニック丸の内オアゾmc歯科医長、次回は6月6日です)
(2008年5月23日 読売新聞) |
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