・安田理事長のエッセー「歯科医 つれづれ記」(読売新聞夕刊)の19回目が掲載されました

安田理事長が読売新聞夕刊に連載しているエッセー「歯科医つれづれ記」の19回目が掲載されました。
今回は、歯が1本抜けた後の処置と考え方について書かれたものです。是非ご一読下さい。
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/karadaessay/【YOMIURI ONLINE】

【歯科医 つれづれ記】
抜けた後 選ぶのはあなた
 久し振りにメガネ店に行った。近くが急に見づらくなり、目の疲れもひどくなったからである。昔なじみの店主に検眼をしてもらうと、近視が弱くなって老眼が進んだそうだ。


 そうなると当然レンズを新しいのに換えなくてはならない。レンズの度は分かったが、さて、どのようなタイプにするかは、種類が多くてなかなか判断が難しい。用途によって異なるし、ガラス、プラスチックなど素材の違いもあって、素人ではすぐには分からない。


 「お任せしますよ」と言いたいところだが、使うのは自分だから一生懸命説明を聞いて、やっとのことで一つを選択する。ところが、まだ終わらない。今度はフレームである。やれやれ、メガネの選択でさえこんなに悩むのだから、歯が抜けた後の処置を選ぶのに、患者さんが迷うのも当然だと思った。


 歯が1本抜けたとき、どうしたらよいか。という前に、そもそも歯は何の役目をしているか。細かなことを除いて大雑把に言えば、食べる機能と、見栄えの二つである。奥歯が1本抜ければ噛(か)みづらくなるし、前歯が抜ければ見栄えが悪くなる。だから1本抜けた場所に、何らかの処置をしてこの二つの役目を回復しようとする。


 「先生、どうしたら良いんですか?」と聞かれると、私はいつも手のひらを広げて五つの選択肢を示す。そしてこう言う。「いいですか、いろいろ示しますが、選ぶのはあなた自身ですからね」


 歯が抜けて噛めなくなる、見栄えが悪くなるという現象は、歯科医が積極的に関与する「疾病」の類ではなく、むしろ患者さんの生活の質の向上を考えて対処すべき「障害」の一種である。そう考えれば、抜けたところに何をするかは、実は歯科医ではなく、患者さん自身が選ぶべきものだということがお分かりだろう。


 私の示す五つの選択肢とはこうだ。一長一短があるが、体に優しい順に、〈1〉何もしない(1本歯を失っても、噛む機能と見栄えに問題ないのならば、選択肢の一つ)〈2〉取り外しの義歯(部分入れ歯)〈3〉接着ブリッジ(両側の歯をわずかに削って、ブリッジを接着剤で固定する)〈4〉ふつうのブリッジ(両側の歯に冠をかぶせ、その間をつなぐ。歯を削る量が多い)〈5〉インプラント(人工歯根を骨の中に埋め込んで固定する)、である。


 機能回復の度合い、見栄え、かかる診療費などは、全くこの逆の順番となる。歯科医のアドバイスを受けながら一つを選択するが、間違っても「これでなければならない」などということはない。「ああ、面倒くさい! お任せします」なんて言わないで、十分に悩んでください。1本の歯の回復はそれだけ価値のあるものなのですから。


(東京クリニック丸の内オアゾmc歯科医長、次は23日)

プロフィール
安田 登 やすだ・のぼる
1969年東京医科歯科大卒。パリ大学留学、第一生命日比谷診療所、東京医科歯科大臨床教授を経て東京クリニック丸の内オアゾmc歯科医長。

(2008年5月9日 読売新聞)