安田理事長が読売新聞夕刊に連載しているエッセー「歯科医つれづれ記」の18回目が掲載されました。
安田理事長のエッセー「歯科医 つれづれ記」の18回目が掲載されました。今回は、誤嚥性肺炎について書かれたものです。是非ご一読下さい。
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【歯科医 つれづれ記】
しっかり食べて肺炎防ぐ
子供のころ、ご飯をガツガツと食べ、むせ込んでは親に叱(しか)られた。私は8人兄弟の末っ子で、我が家は貧乏人の子だくさんを地で行く大家族であった。丸いお膳(ぜん)を囲んで、一斉に箸(はし)を繰り出し、一つの鍋を突く様は壮観であったに違いない。そのせいか、恥ずかしながらいまだに早食いの癖が抜け切れない。
人間は肺に送り込む空気と、食道を通して胃に送り込む食物とを同じ口から取り入れる。そして、咽頭(いんとう)という、のどの奥の部分でこの両者を反射的に分けている。空気が来たなと思えば、気管を開けて肺に送り込む。食物が来たなと思えば食道の方を開けて胃に送り込む。実に見事な交通整理である。
それが、ガツガツと食べれば、空気も食物も同時になだれ込んでくるから、大混乱をきたしてしまう。まあ、両者が胃の方になだれ込む分には、問題は少ない。はた迷惑ではあるのだが、せいぜい、ゲップやおならで空気は外に排出される。
問題は、肺の方に食物や液体が入り込んでしまうことである。もちろん正常であれば、反射的に咳(せき)が出て、これらを外に出そうとする。ちょうど、冒頭の私がむせ込んだ状態がこれである。元気な若者がむせ込むのは、行儀が悪い程度で済むが、抵抗力の弱っている高齢者では大問題となる。
それが誤嚥性(ごえんせい)肺炎で、別名、老人性肺炎とも呼ばれ、いまでは高齢者の死因の上位に位置している。高齢になると、咽頭で行われる交通整理がうまくいかなくなり、同時に咳による反射も十分ではない。従って、食物や液体が肺の方に入り込み、一緒に侵入した細菌によって肺炎がおこるという訳だ。誤嚥性肺炎は食事中だけではなく、睡眠中でも、のどの方に逆流した胃液、あるいは胃の内容物によっても起こる。
介護の現場では、いかにして誤嚥を防ぐかが、重要なテーマである。食事は少量ずつゆっくりと、それも出来るだけ上半身を起こした状態で行う。食後も、胃の逆流を防ぐために、しばらくは同じ状態を保持することが大切といわれている。
ただし、誤嚥してもすぐに肺炎になるかどうかは、細菌の量と免疫力にかかわってくる。要介護高齢者に行った調査でも、口腔(こうくう)ケアを十分に行ってプラーク(細菌の塊)の量を減らした方が、また義歯によってしっかりと食事をし、栄養を摂取した方が、肺炎になる確率が少ないことが報告されている。
う〜ん、そうすると、しっかりと歯を磨いて口の中を清潔に保ち、たとえ歯を失っても、その部分を歯科医院で補ってもらって、良い義歯で食事を摂(と)る。それが結局は、誤嚥性肺炎を防ぎ、ひいては明るい長寿につながることがよくわかりますね。
(東京クリニック丸の内オアゾmc歯科医長、次回は5月9日です)
| プロフィール |
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安田 登 やすだ・のぼる
1969年東京医科歯科大卒。パリ大学留学、第一生命日比谷診療所、東京医科歯科大臨床教授を経て東京クリニック丸の内オアゾmc歯科医長。 |
(2008年4月25日 読売新聞) |