・安田理事長のエッセー「歯科医 つれづれ記」(読売新聞夕刊)の17回目が掲載されました

安田理事長が読売新聞夕刊に連載しているエッセー「歯科医つれづれ記」の17回目が掲載されました。
今回は、“歯が抜けたら「30分ルール」”です。どうぞご覧になってください。
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/karadaessay/【YOMIURI ONLINE】

【歯科医 つれづれ記】
歯が抜けたら「30分ルール」
 「3秒ルール」って、ご存知だろうか? 若者たちがよく使う迷信というか、たわいもない言葉遊びみたいなものだ。クッキーやキャンデーなどの食べ物を床に落としても、3秒以内に拾えば、汚くもないし病気にもならないというものである。何の根拠もないし、誰が言い出したものかも分からない。


 でも、落としてしまったのを、人目があれば拾って食べるわけにもいかず、あ〜あ、仕方ないや、と思っているところに、「3秒ルールだから大丈夫!」と声をかけられれば、正直言って助かる。食べ物を大切にする精神も感じられるし、何よりも気まずくなりそうな場をすっと和ませてくれる。


 3秒ルールならぬ30分ルールとでも言えそうなのが、思わぬ事故で抜け落ちてしまった歯の処理である。野球やサッカーなどのスポーツをはじめとして、子供は元気はつらつ活発に動き回る。その代償として、歯がぶつかって折れてしまうことがある。途中で折れた場合は、歯の破片をもって歯科医院に行くとよい。最近は歯科用接着剤の進歩で容易に復元することができる。


 厄介なのは、根ごと抜けてしまって、血だらけになったときである。痛みと、衝撃で気も動転しているであろうが、ここは冷静に、抜けた歯を拾って元の穴に差し込んでもらいたい。そんなこと怖くてできない、あるいはうまく戻せないという時は、簡単に水洗いしてから、自分の口の中、ほっぺた側か、舌の下に入れて歯科医院に急行してもらいたい。あるいは新鮮な牛乳に浸していただいてからでもよい。最近では、歯の保存液といって、専用の製品も市販されているようだ。


 歯の周りの組織(歯根膜)が生きている限りは、歯は元に戻る可能性が高い。しかし、歯根膜は口の外に飛び出してしまえば、30分以内にほとんど死んでしまう。だが、急いで唾液(だえき)の中や、牛乳につければ、歯根膜を守れる。


 まさに3秒ルールならぬ30分ルールである。いい忘れたが、泥だらけになった歯を水道水で洗うときには、あまり長くしないでいただきたい。水道水に含まれる塩素で、歯根膜がダメージを受けてしまうからである。


 この方法は、歯が全く元通りになるというわけにはいかないが、10年以上もった例は多数報告されている。まあ、けがなどしないに越したことはないが、万が一のために歯の保存法を覚えておくのもよい。


 ちなみに3秒ルールの方は、アメリカの研究グループによって、その効果が立証されたとの話をインターネットで見つけた。にわかには信じがたい話だが、まあ、平和?で罪のない研究であることは確かである。


 (東京クリニック丸の内オアゾmc歯科医長、次回は4月25日です)

プロフィール
安田 登 やすだ・のぼる
  1969年東京医科歯科大卒。パリ大学留学、第一生命日比谷診療所、東京医科歯科大臨床教授を経て東京クリニック丸の内オアゾmc歯科医長。

(2008年4月11日 読売新聞)