・安田理事長のエッセー「歯科医 つれづれ記」(読売新聞夕刊)の13回目が掲載されました

安田理事長のエッセー「歯科医 つれづれ記」(読売新聞夕刊)が掲載されました。
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/karadaessay/【YOMIURI ONLINE】

【歯科医 つれづれ記】
入れ歯の忘れ物なくすには
 自慢ではないが忘れ物が多い。誰の話でもなく私の話である。恥をさらすようだが、最大のものとしては、大学受験の時、受験票を忘れた。当日、忘れたことに気付き真っ青になったことは、今でも忘れられない。


 守衛さんの部屋で仮の写真を撮ってもらい、辛うじて、試験はことなきを得た。歯科医になれたのも、守衛さんのおかげと感謝している。


 先日も、例によってホテルで忘れ物をした。応対してくれたフロントの方から、「結構、入れ歯をなくされたり、忘れたりする方もいらっしゃるんですよ……」という話を聞いた。そういえば、電車の忘れ物にも入れ歯があるらしい。いずれにしても、歯科医としては聞き捨てならない。皆さん、外した自分の入れ歯は、夫婦、親子、友人、どんなに親しくても、見せたくないらしい。奥ゆかしいのもよいが、外すやいなやティッシュにくるんで、ポケットやら、カバンに突っ込む。さて出かける間際になって、どこにいったかわからなくなって、大騒ぎとなる。


 実際にあった話だが、これがチェックアウト後ともなれば、収集されたゴミや洗濯物を引っくり返し、宿の人を大勢巻き込んでの大捜査線と化す。なくした当人は申し訳なさそうな顔をして立っているが、モゴモゴ言うだけで、どこに置いたかうまく説明が出来ない。そりゃそうですよね、入れ歯をしていないのですから。


 そんな時便利なのが、入れ歯ケース。最近はいろいろな種類が出ている。かわいらしい図柄のポリ容器で、水切りの機能を備えたものや、除菌をかねているものもある。入れ歯に限らず、歯ぎしり防止用のマウスピース、ホワイトニングに使うトレー、さらには矯正用装置にも取り外しのものがある。

 そういえば、欧米では抜けた乳歯を枕の下に入れて眠ると、夜中に「歯の妖精」(トゥース・フェアリー)がやってきて、歯をコインにかえてくれるという伝説があり、それに基づいて作られた乳歯保管用の「トゥース・フェアリー・ボックス」というのがある。これが何とも素晴らしく、陶器で出来たものや、有名宝飾店デザインのものがあり、箱も中身もきっと大切にするに違いない。


 入れ歯に名前を入れる試みも多く見られる。病院や介護施設など、入れ歯をしている人が多く集まる場所では、外して置いておくと、誰のものか分からなくなってしまう。一歩進んで、個人情報を含んだICチップを埋め込んでおけば、まさかの時にも役に立つだろう。アメリカでは自分の歯の裏側に張り付けているくらいだから、できない話ではない。


 忘れ物名人の私としては、何としてでも入れ歯にならないように努力したい。でも、もし入れ歯になってしまったら、ひもでも付けて首にでも掛けなくてはと心配している。


 (東京クリニック丸の内オアゾmc歯科医長、次回は29日です)

プロフィール
安田 登 やすだ・のぼる
  1969年東京医科歯科大卒。パリ大学留学、第一生命日比谷診療所、東京医科歯科大臨床教授を経て東京クリニック丸の内オアゾmc歯科医長。

(2008年2月15日 読売新聞)