安田理事長のエッセー「歯科医 つれづれ記」(読売新聞夕刊)が掲載されました。
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【歯科医 つれづれ記】
噛みあわない 患者さんとの話 「齟齬(そご)をきたす」。意見の食い違い、考え違い、思い違いなど、要は相手と噛(か)み合わないことである。患者さんと歯科医が齟齬をきたしていることがある。
先日、久し振りにいとこが訪ねてきた。ひとしきり昔話に興じた後、唐突に「ところで、ノボルさん、近ごろ女の子がやっているブリッジってどう思いますか?」と質問してきた。私はキョトンとしてしまった。「最近、はやっているんですよ、いい年をしたおばさんまでやっていてね」。ますます、混乱してきた。
大体、歯科でいうブリッジとは、歯が抜けた後を補う手段の一つで、抜けた部分の隣り合った両側の歯に「橋=ブリッジ」をかけるように、金属やセラミックを入れる方法だ。「だから、前歯のところにワイヤが入っている、あれ」。歯列の矯正装置のことを指していることがようやく分かった。
ブリッジは、普通は自分でははずせないもので、とカミさんに話したら、むしろ逆にびっくりされてしまった。「えっ、自分ではずせないの?」。取り外し式の小さな入れ歯とブリッジを取り違えていた。この間違いは比較的多い。ちなみにうちのカミさん、歯医者の娘で、もちろん歯医者の女房である。
入れ歯は大きくても小さくても、基本的には取り外せるものである。歯がすべてなくなったときにするのが「総入れ歯」で、1本でも自分の歯が残っていれば、そこにする入れ歯は、すべて「部分入れ歯」という。歯が1〜2本抜けた程度の部分を補うには、ブリッジでもいいし、小さな部分入れ歯でもよい。
「自分の歯」という言葉の意味もしばしば食い違う。患者さんは、全く手を付けてない歯を指していることが多い。差し歯や被(かぶ)せ物については自分の歯という感覚がないようだ。一方、歯科医が言う「自分の歯」は抜いていない歯のことである。根だけでも残っていれば、差し歯であろうが、被せ物であろうが、すべて自分の歯なのである。
先日、「先生、インプラントにしなくてはだめですか?」と聞かれた。口の中をのぞいたが、歯が抜けた部分はどこにもない。「ほかの歯科医院で言われたんですけれど」。つまり自分の歯である差し歯を抜いて、そこにインプラントをしようという話らしい。念のため、インプラントは、歯がないところに、人工の歯根(しこん)を植え込む手術で、ずっと高額である。
患者さんは、差し歯そのものが自分の歯という感覚がないので、骨の中に埋め込むインプラントも同じ類(たぐい)のものと理解しているようだ。おー怖い。
最近はインフォームド・コンセント(説明と同意)の言葉どおり、歯科医も治療に対する説明を十分に行うことが義務付けられているが、両者に齟齬があったら、何の意味もない。よく話し合うことが大切ですね。
(東京クリニック丸の内オアゾmc歯科医長、次回は30日です)
| プロフィール |
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安田 登 やすだ・のぼる
1969年東京医科歯科大卒。パリ大学留学、第一生命日比谷診療所、東京医科歯科大臨床教授を経て東京クリニック丸の内オアゾmc歯科医長。 |
(2007年11月9日 読売新聞) |