t.o.h.会員 奥 麻衣子
「気はやさしくて力持ち」これは昔話の金太郎にも出てくる言葉ですが、皆さんもよく耳にする言葉ですね。今更説明など不要かもしれませんが、一言でいえば「健康で思いやりのある人間」といったところでしょうか?鋼のような頑強な肉体と真綿のような心を兼ね備えている、それが訪問歯科診療を行うスタッフに求められる特質ではないかと思います。
訪問歯科診療とは、文字通り患者様のもとへ出向いて歯科診療を行います。対象となる患者様が高齢で、あるいは事故や病気で身体的、知的ハンディがあるため、歯科医院に通うことが難しいからです。コミュニケーションをとるのが難しい方、心を閉ざしてしまっている方、体が思うように動かせない場合等、様々なケースがあります。
外来なら簡単な歯ブラシ、歯石・歯垢除去、舌苔除去、義歯清掃もここでは大きな負担を強いられます。ましてや認知症等ともなれば、歯磨きを拒否されたり、不意の抵抗で叩かれたり、指を咬まれたりと言う場合もあります。また全身疾患のみならず、個性やその日の状態も考慮に入れて臨機応変に対応しなければなりません。そのためやむを得ず中止することもありますが、まずは声かけをしたり器具を変えてみたりとあの手この手で試みることです。時々投げ出したくなる事もありますが、気持ちも新たに挑みます。「優しい気持ちになって・・・」
さらにむし歯などの治療が必要な場合は往診用の機械を持ち込まなくてはなりません。注水しながら切削する機械、バキューム、レントゲン、器材一式は改良されているとはいえ早々簡単に運べるものではありません。外来とは違った限られた環境の中であること、時に無理な姿勢で行わなければならないことなどから、かなりのパワーやスタミナが要求されます。また車で出向く場合にはハプニングもつきものですし、効率的にまわる為の道路情報等の予備知識も時に必要です。総じて肉体的にも精神的にも過酷な労働と言えるでしょう。
それでも暑い日も寒い日も雨の日も衛生士を動かす力の源とは何でしょうか。患者様の口腔内の状態が少しずつでも改善していくのを感じる時、拒否されていた歯ブラシを嫌々ながらも少しずつ応じてくれるようになったのに気づいた時。つまり患者様と気持ちが通じて来たなと感じた時ではないでしょうか?そして何にも増して嬉しいのは患者様からの感謝の言葉や行為があった時です。これは訪問、外来問わず全ての医療従事者であれば共感して頂けることと思います。私達が「気はやさしくて力持ち」精神で接すれば必ず固く閉ざされた心の扉も開け、「健全なる精神=優しい気持ち」が取り戻せるのだと確信しています。そしてこの時本当にこの仕事をしていて良かったと実感できるのです。
訪問歯科診療に携わっている皆さん「日々これ決戦、日々これ精進」です。がんばりましょう。
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